花よりダンゴ


 ギターを教えて約20年試行錯誤を繰り返してきましたが、振り返ってみると自分にそんな才能があるのかと考え込んでしまう事があります。私は一体生徒の方々に何を教えているのでしょうか。
 テクニック? テクニックなどは少し考えると自分でもできますし、左右の適切な運指など、熱心に練習すればすぐに上手になってくるものです。
 それでは音楽? それとても私に大した知識があるわけじゃなし、そんな偉そうなものはとても教えられません。私自身、ソルフェージュと和声学、指揮法や対位法を少々独学で勉強したぐらいです。ちょっと自信をもって言えることは、やたらと音楽が好きだということぐらいでしょうか。
 
 レッスンでは生徒さんが来られて私の前で課題曲を演奏するのですが、私はあまり上手にアドバイスも出来ず、ただ真剣にその演奏に耳を傾け、時々音の流れや縦の響きについてアドバイスをし、あるいは生徒さんと一緒になって課題曲を研究することが多いようです。
 ある生徒さんに言わせれば、私のレッスンはそうとう厳しく面白いとの事。レッスンに熱が入ってくると大きな声が出始め、時には怒鳴り、部屋の中を熊のようにグルグル歩き回り、鉛筆まで投げて、40分のレッスン時間などお構いなしに2時間ぐらいぶっ通しでレッスンすることがあります。どうもレッスンの途中でタバコを吸い出すと危険信号なのだそうです。とうとう最後には「ええい、今日は飯を食って行け!」

 その方は最初、ここは一体どんなギター教室なんだと思ったそうですが、当の私はそのような事はあまり覚えてはおりません。家内は隣の部屋でハラハラ・ドキドキしてレッスンの様子を伺っている時があるそうです。レッスン時間が長引いてくると、「今日も晩ご飯つきのレッスンかなあ」と思って、その支度を始めるのだそうです。ふーん、私はそのようなことなど、全く気にしたことはありませんが・・。

 それでも皆さん辞めずに続けて来て頂いているのは、まあ多少は何か得るものがあるのかななどと自己満足しています。ある日、そのような話を生徒さんとしていると、その方曰く

「私が続けて来るのはレッスンの面白さもさることながら、奥さんの手料理の魅力も捨てがたいものがあるからです」

 ああ・・花よりダンゴ。