妻へのラブレター


 日曜日の昼下がり、私がギターの練習をはじめると、家内はテレビを消し色んな事を始める。例えば、本を読んだり、孫の繕いものをしたり、新聞を広げたりと。私はそれを横目でみながら練習をするのであるが、家内が突然「お父さん100万円欲しくない?」などと言う。いらない訳はない。我が家にそんな大金がある訳がないし、もし100万なんてお金があればギターがもう一本!いや、またまた海外旅行かな? 
 
 いったい何の事かと聞いてみたら、家内曰く「私にラブレターを書いてみない?」 冗談ではない。同級生(星林高校のクラスメイト)でいつしか?家内と結婚した私はラブレターなんて未だに書いた事がないのである。今更そんな歯の浮いたような事を書けるわけがない。 

 ところが家内、「ねえ○○生命のキャンペーンで『結婚30年以上の妻へのラブレター』というのがあって、その入賞賞金が100万円だって」。そして私はその100万円の賞金のために、ギターの練習を止め作家に変身したのである。さて、何を書いたものか・・。まあ現状をそのまま書いてみよう。

 『私が日曜日の昼下がりギターの練習を始めると貴方も色んな事を始める。本や新聞を読む、孫の繕いものする、時には化粧をしたりもする。お茶目なあなたはまるで貧しささえ楽しんでいるようだ。そして思い出したかのよに「素敵な曲ね」と言うと、私は耳たぶまで真っ赤になる。そして貴方はクスット笑う。そう私が爪弾いているのは貴方への恋歌。そしてきっと貴方はそれを分かっているのでしょうね』
 これはなかなか良い作品が出来たと自画自賛していると、家内が「まるで詩のようね」と笑いながら褒めてくれる。よしこれで行こう。100万円は間違いなく私のものだ。待てよ、これって何処かで聞いたことがある言い回しだなあ。このタッチは・・? アッ!これは私の得意のギターと詩の朗読、「プラテーロと私」にそっくりじゃないか。まあいいか送っちゃえ(多分、ばれないって)。

 再度、応募要領を確認。フムフム、半年後に発表。賞金、優秀作100万が1名、佳作50万が2名か。私の書いたラブレターは絶対に優秀作に間違いなし。

 それからそんな事があったことなどすっかり忘れていた私のもとに、ある日、○○生命より届けられた一通の封書。中には「参加ありがとうございました」と言う手紙と、100万円ならぬ一枚のテレホンカードが・・。